第14章 傷痕
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「じゃあさ俺、宿押さえとくわ!あ、どこ方面がいいとかある?」
「僕、海の近くがいいなぁ…画材、持ってってもいい?」
「勿論!じゃあ、電車より車がいいか…レンタカー借りよっか?」
「翔くん免許持ってんだ」
「ザッツライト!ゴールド!!
って、智くん持ってないの?」
「…僕には、必要ないから」
「…あ、そうなの…」
「………」
「………」
楽しく旅行の話しをしていたのに
急に、変な沈黙が…
と
智くんが目を伏せて、ぼそりと言った
「……今日は、潤 くんとの事……言わないんだね」
「え…?」
「……この前は、散々別れてって……言ってたのに」
「………」
言葉を失う俺から視線を逸らしたまま、智くんが続けて言う
「……僕、あの後潤 くんに別れ話しようと思って……電話したんだ」
「ほ、本当?」
「……でも、何も言わないで……切っちゃった」
「………」
「………」
また、沈黙…
「………」
智くんは黙ったまま立ち上がると
空いた器をキッチンに運んだ
かちゃかちゃと、食器を洗う音がやけに響く
「……………電話口で」
洗い物をしながら智くんが話しはじめた
「……電話口で奥さんの声がして…
…僕、潤 くんが優しく奥さんに声かけるの聞いて…
…………嫉妬したんだ」
「………」
かちゃかちゃと鳴っていた音が止まって、水が流れる音だけが狭い部屋に響く
「……次の日、潤 くんが慌てて飛んできて……
……僕、潤 くんに抱かれたよ」
「……智くん」
「…何度も、何度も…
……僕が……抱いてって……
……言ったから」
「智くん」
「…翔くんと逢う様になってから、初めて僕から抱いてって…」
「…智」
俺は、項垂れる君の背中を抱きしめた
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