第14章 傷痕
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流しっぱなしの水の音が、静まり返った部屋に響く
「…もういいよ…もういいから…自分を責めないで…」
俺は、蛇口を閉めると、智くんの涙をぬぐった
「…っ…何で…翔くん…何で怒んないの…?」
「…怒って欲しいの?」
「……わかんない///」
智くんは俺の背中に腕をまわして、肩口に頬を寄せた
「…わかんないけど…叱って欲しいかも///」
「…じゃあ、一個だけ」
「……?」
「自分を、もっと大事にしなさい」
「……!!////」
「言いたいの、そんだけ」
「…何で…////」
俺は、また智くんの涙をぬぐいながら言った
「解ってるよ、智くん…
…智くんは、本当はそんなことしなければ良かったって、後悔してるんだよね?
……違う?」
「……////」
智くんは返事の代わりに、黙って俺を強く抱きしめた
「…俺ね、ニノに智くんと松本くんの間に、昔何があったのか聞いたんだ」
「え…?」
俺はそっと、智くんの脇腹に触れた
「この、傷跡の事」
「……ニノ、なんて?」
「松本くんが刺そうとした相手を庇って、智くんが刺されたって…」
「……潤 くんは、悪くない…悪いのは……僕なんだ」
静かにまわした腕を解いて君が言う
唇を噛み締めて…
痛々しくらい、後悔に顔を歪めて…
「智くん、君の痛みを…俺に分けて?
…智くんの、抱えてるもの…
俺にも、持たせて…?」
「………」
智くんは潤 んだ眼を見開いて、俺をじっと見つめている
「………何処にも行かないって、約束して」
智くんはもう一度俺に抱きつくと、溜め息と共に言った
「ずっと一緒って…」
「…ずっと一緒だよ…
だから、俺に君を…全部見せて?」
「……………
……………
…潤 くんに、初めて会ったのは
僕が、大学三年生の時で…
…潤 くんは、高校三年生だった」
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細く息を吐き出しながら
智くんが、静かに語りだした
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「僕が、彼を初めて見たのは、大学三年生の夏休み前
バイトを探してた僕に
当時付き合っていた大学の教授が紹介してくれた、高校の臨時の美術講師のバイトの
その面接に行った時だった…」
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