第1章 出逢い
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看板には“Lotus”の文字
(蓮って意味だっけ?)
なんて思いながら
俺は、重量感のある骨董調な扉を開けた
「ようこそ、いらっしゃいませ」
中に入ると、カウンター越しにバーテンダ—の明るい声に出迎えられる
店の中はこぢんまりしていたが、上品で落ち着いた雰囲気だった
スラリと背の高い、笑顔が恐ろしく爽やかなバーテンダーの青年が
「こちらへ、どうぞ」
と、にこやかにカウンターに手をやった
「あぁ、どうも…」
言いながら、俺の目は
その人に、釘付けになっていた
「はい、どうぞ」
「…………」
俺は、その人の座っている席から一つ開けた席に腰掛けると
異様に愛想の良いバーテンダーから、黙っておしぼりを受け取った
その人…つまり君は
カウンターの奥に独り、殆ど空になったグラスを揺らしていた
「…………」
溶けかかった氷が、カラン、カラン、と、小気味好い音を奏でている
その、グラスを揺らす、長く美しい指が、微妙に動く様が
やけに色っぽい
前髪が、長い睫毛に縁取られた下がり気味の目尻に掛かっていて
小さめの、ふっくらとした唇が、濡れたように艶めいて
これまた色っぽい
小首を傾げた、その整った横顔は、目を奪われる程に
綺麗だった
と
不意に君が顔を上げた
そしてグラスを前に突き出すと
妖艶な横顔からは想像出来ないような、抜群に可愛らしい笑顔で
「あーばちゃぁん、おかわりぃ♡」
…と、言った
「もう、おーのくん、呑みすぎでしょ!」
笑いながら“あーばちゃん”と呼ばれたバーテンダーがグラスを取り上げる
(おーのくん?オオノ…くん?男なのか??!)
中性的で美しい君を、俺はその時初めて男だと認識したのだ
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