第3章 籠の鳥
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『っうそ…』
電話越しに、ニノが息を呑むのがわかる
「何か…一人で心細いからって…会社にずっと居るみたい…だから…」
いつの間にか、涙が溢れてた
「…結婚してんだもん…普通だよ……もう……一年だもん……当り前…」
『…うん』
「…ふふ…僕バカだから……本当はさ……酔った勢いで……浮気……してやろうって……」
『…ぅん』
「えへへ…でもさ……出来なかっ……」
『…ん』
相槌をうちながら、ニノも泣いてるみたいだった
「…さ、櫻井くんがっ…いいっ……ヒトでっ……良かっ……」
後はもう、事葉になんなくて…
子供みたいに泣いちゃった
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長い…長い沈黙の後、ニノが口を開く
『大野くんさ…櫻井さんって、マジで凄くいい人だよ』
「…え?」
思いがけない言葉に、僕は泣き腫らした顔を上げた
『…櫻井さん、雅紀の店の常連でさ
大野くんに一目惚れして毎日雅紀のとこ通ってるくせに、手ぇ出さなかったんでしょ?
なんか、一人で悶絶してんの目に浮かぶわ』
(…毎日?…僕に、会うため?)
口いっぱいにご飯を頬張って
楽しそうに色んな話をしてくれた、櫻井くんの顔が浮かぶ
…何だか胸が熱くなる
『暫く会えないなら、他の男とちょっと遊ぶくらい、いいんじゃない?』
「ニノ…何言ってんだよ」
『大丈夫!』
ニノが高らかに宣言する
『あの人、真面目な上にヘタレだから、手は出さない!』
悪ぅ〜い顔して笑うニノの顔が目に浮かぶようで…
僕は、また会う約束をしたのは黙っとこって
心の中で呟いた
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