第2章 心をさらったあなたへ
また、夢…?
冷たく曇る闇を裂くように
暖かな風が、優しく、激しく私を取り巻く
風は私を抱いたまま勢いを増していき、思わず顔を腕で庇う
なおも吹き荒ぶ風に巻き上げられた左腕から、包帯がはらはらと飛んでいくのが見えた
いつの間にか雲はどこかへ流れ去り
夜明けの空に小さな星が瞬いていた
目を開けると、窓の外は雲を透く橙色に染まっていた
と、手の中で何かが小さく動いた
「あ…」
寝台の端に頭を預け、小さく寝息を立てる、愛しい人
そういえば、実弥さんも夜通しお仕事だったのに…
私を助けて仕事もこなして、休む間もなくまた私のところに来てくれた
眠りに落ちる直前のことを思い出して、たちまち頬が熱を持つ
「…大好きです。実弥さん」
繋いだ指先をそぅっと離し、白く柔らかい髪に指を通す
「……?起きたか」
「はい」
「顔色良くなったなァ」
「ありがとうございます」
頬に触れた手は、二度の夢の中と同じ温度をしていた
…そうか。ずっと…
「あなただった」
「ん?」
「夢の中で風が、私を守ってくれていました。あの風は…実弥さんでした」
眠たげだった瞳が驚いたように見開かれた
「そうかィ。…ありがとうなァ、千聡」
「え…?」
「いや、なんでもねェよ」
どちらからともなくまた指が絡んだ
冷たい闇もどんな痛みも、この手を離さず生きていきたいと
すべてを懸けて伝えていこう
寄せては返す波のように
頬を撫でる風のように
私を
俺を
さらったあなたへ。
【心をさらったあなたへ 終】