第2章 心をさらったあなたへ
寝台に戻った不死川さんの体温、脈拍、血圧を測定する。これが本来の目的だったのにだいぶ遠回りをしてしまった。
「名前。」
腕を縛っていたゴム管を外していると、それまでおとなしく検査されていた不死川さんに急に凄い顔で睨まれた。怖いです。
「そろそろ名前くらい教えろォ」
そういえば名乗っていなかったっけ。柱である不死川さんのことは当然知っていたからすっかり忘れていた。
でも名前聞くくらいでそんな目剥かないでください血走ってます。
「雪村千聡です」
「ん」
今朝針の抜けた腕に綿紗をあて、包帯で軽く留める。
「点滴繋ぎ直しますよ、ちょっとちくっとします」
もう癖になってしまった文句をかけると
「…おう」
不死川さんが一瞬きゅっと目を瞑った
…あれだけ自傷行為でしのぶさんに引き摺られてきているのにこの人、もしかして注射が怖「んなわけねェだろ阿呆かァ」…心を読まないでください。
「手、冷てェ」
「…すみません、生来のもので。」
まさかね、あの風柱が注射が怖いとか、ないない。天地がひっくり返ってもないわ。
水竜の血を引く私は、普通の人より少し体温が低い。
体は一応人間なので免疫が弱くて困っているのだけどこればかりは仕方がない。
「はい、終わりました。もう勝手に抜かないでください。事故報告が面倒です」
「うるせェわかってる。あーねみィ…」
「回復のためです、大人しく寝てください。起きているとまた死にかねないので」
「お前ほんと一言多いな」
そう言いながらも素直に目を閉じた不死川さんへ、少しだけ消炎の気を流し込む
…この力は知られてはいけない。
でも、少しでも楽に眠れますように。
「おやすみなさい。また来ます」