第9章 弱虫 × 強虫
蝉が鳴く。
もう夏なのか、と実感。
涼しい教室の中でボーッと外を眺める
「愛里、元気ないね?」
智凪が心配そうに聞いてくる
「ちょっとね」
和也はいつも通り女の子口説いてるし
何も変わっていない。
私以外の日常は、なにひとつ
『……ッッ、待ってよ!智!!』
『離して。話すことなんかないでしょ』
『お願い聞いて!』
廊下に響く女の子と大野くんの声。
珍しい、トラブルなんて
そう思い、智凪と廊下へ行くと
可愛いロングヘアの女の子が
大野くんにしがみついて泣いていた
逆に大野くんは無表情で、
リアクション無し。
『…わたしっ、智が好きなの!』
「俺は好きじゃない。」
ガヤガヤする廊下で
何やらワケありの2人。
智凪が仕方なく大野くんに話しかける
「大野くん、大丈夫?」
女の子は智凪をしばらく睨んだあと、
「またあとで来るから」と言い残して
その場を去って行った。
「…ごめんね、迷惑かけて」
大野くんはへらっと笑い、
教室の中へと入った
「私、知ってるよ。あの子。」
「そうなの?なんで?」
「私に悪戯してきた子だからね
確か大野くんの元カノだよ
浮気症らしくてすぐ別れたみたいだけどね」
「ふーん。やっぱ大野くんもモテるんだね」
「そりゃ、喋んなくてもイケメンだよ?
一緒に居たらドキドキして死ぬよ」
「それは大変だね」
大野くんのあの笑顔、
心の底の笑顔じゃなかった。
だけど、元カノとのトラブルなんて
気安く聞けるはずない。
「入ろ」
「うん…」
このままじゃ終わらないなんてわかってる
智凪を睨んだ目。
何もなければいいなんて、
この時はそれだけを祈っていた。