【MARVEL】This is my selfishness
第8章 8th
『お母さん、わたしと似てる服を着てる?』
今にも泣き出しそうな男の子に努めて優しく聞いてみると、小さく頷いた。
今見つかりそうに無かったら従業員の人にお願いしてもいいけど…きっと今この子は心細いだろうな…出来ればそばに居てあげたい。お母さんとわたしの服が似ているのであればそれで少しは安心するかもしれないし。
「ミア」
バッキーに呼ばれて、見上げると、バッキーが目で何かを示した。
『あ、』
1人の女性が何かを探すようにキョロキョロと視線を迷わせていた。
その女性の服の色はわたしが着ているカーディガンの色に似ていて、丈の長さも似たような長さだった─────なるほど、確かに間違えちゃうな。
女性が近くまで来ると、男の子もそれに気付いたようで「ママ!」と駆け寄った。わたしが立ち上がると、女性はわたし達が男の子と一緒に居たことに気付いたらしく、大慌てで謝ってくる。
「すみません!ウチの子が…!」
『いえ、似た服だったので間違えちゃったみたいです。合流出来て良かった』
どうやら、映画を観終わった後、お母さんと分かれてトイレに行った男の子はわたしの後ろ姿を見てお母さんだと勘違いしてしまったらしく、当のお母さんはというと、他のお客さんたちに紛れてしまった男の子に気付かず、トイレ付近で待っていたらしい。
お母さんと男の子は最後に「ありがとうございました」と言って去って行った。
『ほんとに良かったね、合流出来て』
「…そうだな」
同意してくれたバッキーの声が上の空だった気がして顔を見上げると、その視線はわたしの背後───ちょっと下の方を見ていた。
『どうかした?』
「いや、何でもない。始まるぞ」
バッキーに言われ、時計を見ると映画の上映の5分前だった。
上映し始めたばかりのわたし達が観ようとしている映画は人気作品のためか、建物の奥の方にある大きなスクリーンで上映される。
今からだと何か買って入るには遅れてしまうかもしれないということで、結局何も買わずに上映スクリーンへ向かった。