第57章 洞観
「――――そうだな、私も気になった。」
「はい、ザックレー総統が何に困るのか。ただただ王政に睨まれる、圧力をかけられるから困るのか―――――?そんなものは、今まで散々あったことだろうと思うと――――――……別の、ザックレー総統の中にある何かの目的に差し障るから困る、と仰っているのかと想像しました。」
エルヴィン団長はははは、と小さく笑って椅子に大きくもたれかかると、その蒼い瞳を私に向けた。
「―――――君に嘘はつけないな。」
「いや十分つかれてますけど………。」
思わず反論してしまう。
「でもすぐに解き明かしてしまうじゃないか。」
「解き明かせる嘘なら、つかないでください。騙す気なら、騙し通して欲しいです。」
「―――――難しい事を言う。」
「今回のことでもう一つ確信しました。」
「ん?」
「エルヴィン団長は誰のことも信じていないんですね。」
「―――――――………。」
私の言葉に、エルヴィン団長は少し戸惑ったように目を見開いた。
「―――――だからリヴァイ兵士長にも、ハンジさんにも、ミケさんにも………私にも何も言わず、秘密裏に一人で背負ってしまう。―――――私たちはそれが悲しいです。エルヴィン団長の事を信じているからこそ、私たちのことも信じて欲しいです。」
「…………。」
「ご、ごめんなさい……偉そうなことを………っ……!」
エルヴィン団長は黙ったまま、視線を落とした。
なにかを回想しているようだった。
私は気まずい雰囲気に耐えられずグラスの中のワインを煽った。
「―――――いや、君の言う通りだ。そうだな、どこまでを伏せてどこまでを伝えるのが最善なのか、わからなくなってきていたのかもしれない。」