第57章 洞観
―――――そうだ、私がリンファに言えなかったことと同じ。私たちには根本として外の世界が実在することを証明するという、公にできない目的がある。
人類のために調査兵団は戦うと掲げながら、外の世界のことは伏せたまま、いつかそれが公になるまでは情報の精査に十分留意する必要がある。
それを団長という立場で、私などよりもより多くの情報を手にして、多くの人たちと相対してこられたのだから、何を誰にどこまで話すのがいいのかを判断することが難しくなっていくのは、当然かもしれない。
「―――――これだけは言える。君は唯一、俺が全てを曝け出せる相手だ。」
エルヴィン団長が先ほどよりも少しだけ柔らかな表情を向けてくれたので、ホッとした。
「―――――同志、ですね。」
「今は、そうだな。」
「??」
今は、の意味が上手くとらえられず、真意を問う目を向けた。すると、エルヴィン団長の大きな手が私の頬にすり、と添えられた。
「同志以上の関係になりたい。ナナ。」
「―――――………。」
その蒼い瞳に私が大きく映る。
「共に生きると約束した男女が、同じ部屋で酒を嗜んで――――――君はもう頬を染めて、息を荒げている。何も拒める理由がないと思うが、一応聞こうか。」
「―――――………っ………。」
「抱かれる覚悟で、ここに来ただろう?YesかNoで答えてごらん。」
なにを今更勿体ぶることがある。
処女でもあるまいし、たった一人だけに捧げられたらと願っていた人を自分から突き放した。
それは結局、こうなることを望んでいたのだろう。
淫らな自分を認めるための言葉を、私は小さく呟いた。
「―――――Yes, Boss.」
エルヴィン団長は頬に寄せた大きな手で私の顎先を少し持ち上げ、唇が触れそうな距離で囁いた。
「―――――Good girl.」
そのまま唇が塞がれ、私の身体の中で甘い毒が疼き始めた。