第57章 洞観
「早死にしたくなければ、つまらない大人になるのも一つの手だぞ?」
「―――――早く死ぬことより、抗うことを辞めるほうが、私にとってはよっぽど恐怖です。」
「―――――死に急ぐ質か。………まぁいい、マシューはそのまま置かせてもらうぞ?お前が不穏な動きをしないように見張らせておく。―――――困るんだよ。派手に動かれるとね。」
「―――――承知しました。」
「―――――こんな穏やかじゃない話を、補佐官に聞かせて良かったのか?」
ザックレー総統は私をちらりと見た。
「ええ。彼女は―――――私の右腕ですので。」
「そうか。―――――ナナ、また次の機会に一局頼むよ。」
「喜んで。もう少し骨のあるお相手ができるよう、訓練しておきます。」
「はは、期待しておこう。」
「―――――それではこれで失礼致します。」
その夜、まるで恒例のように宿の部屋でエルヴィン団長と共にお酒の入ったグラスを傾けた。
「――――――まさか、身内からの差し金だとは……思いもしませんでした………。」
私が衝撃を隠せずにいたことを口に出すと、エルヴィン団長は小さく笑ってワインを喉の奥に流し込んだ。
「――――――今日のザックレー総統の言動から、君は何を見た?」
「はい、前回感じた通り――――――やはり王政に忠実な凡庸さの裏に、何かを秘めていらっしゃる方だと思いました。」
「それはどんな理由で?」
「ザックレー総統は、王政とご自身を同じ思想を持つ同じ括りとしてではなく、全く別のものとして話されていました。『私たちは』ではなく、『連中は』と言われていたので。………その話しぶりが本心であるとすると、あの一言が一番気になりました。」
『困るんだよ。』
エルヴィン団長と声が重なり、その視線が交わった。
そしてどちらともなく、小さく笑む。