第57章 洞観
「………エルヴィン、長生きする人間とはどんな人間だ?」
突然の、しかも会話の流れをまるで無視した質問に眉を顰める私を横に、エルヴィン団長は涼やかな表情のまま答えた。
「―――――長生き、ですか。そうですね………心身共に健康な人、でしょうか。」
「―――――いや違う。馬鹿で無能な奴だ。」
丸い眼鏡の奥から、鋭く、だが少し歪な眼光でザックレー総統がエルヴィン団長のほうを見た。口元に少しの笑みを残して語られるその言葉は、私の心をざわつかせた。
「馬鹿は実に可愛いじゃないか。虚栄に塗れて上辺を塗り固めることしか考えず、本質を見ようとしない奴は脅威になりえないために生かしておいてもらえる。そうして飼われ、ただ日々兵士の命と時間を浪費する―――――そうすれば連中は安心する。それがお前はどうだ。実に聡く、そしてこの世の理を暴こうと、人類を巨人から解放しようと日々牙を研いでいる。それが面白くない輩もいるということだ。」
「―――――………。」
ザックレー総統に圧力がかかったのか。
まるで私たちが真実を暴こうとすることが悪かのように、今のままの世界を維持することが正義かのように、そう考えているのは――――――王政側の人間か。
私は俯いて震える拳をぎゅっと握りしめた。
「いやそれにしても可愛くないなお前は。潜入させてまだ日も浅いのにもう炙り出したのか。気に食わんよ、実に。――――――だが、面白い。」
権力に抗わず巻かれることを良しとしている凡庸な人間かのように振る舞っていたザックレー総統の、最後の一言に込められた笑みに私は確信した。
とても怖い、エルヴィン団長とはまた違う怖さと闇を秘めた人間だ。