第57章 洞観
ザックレー総統の部屋に入ると、ザックレー総統は何やら本を片手にチェス盤とにらめっこをしていた。
「………おや来たのか。」
「ザックレー総統、急なお願いにも関わらずお時間を頂きありがとうございます。」
エルヴィン団長は凛々しく敬礼をした。
「なんだ、またウォール・マリア奪還に向けての策を持ってきたのか?」
ザックレー総統は本を見つめながらチェスの駒を一つ動かした。まるで興味がない、聞く気が無いと態度から示している。
「いいえ。」
「では何かな。」
「―――――調査兵団の……いえ、私の何をお疑いですか?」
「――――!!」
エルヴィン団長の直球の問に、私はその驚きを隠せなかった。
「――――なんのことかな?」
「――――マシュー・ブライトン………いや、マシュー・ブライトンとして調査兵団に転属させて来られた彼の本名も教えていただけるとありがたいのですが。」
「―――――………。」
ザックレー総統の手が、止まった。
「―――――本当のマシュー・ブライトンは、奪還作戦で既に亡くなっています。その名前を使って、憲兵団の手練れを転属させる―――――……兵団組織内でもそんなことが出来る権限を持つ人物は限られています。何か、ご存じのはずでは?」
エルヴィン団長からの質問に答える様子もなく、ザックレー総統はふ――――――っと息を吐いて手に持っていた本をばさ、と机に置いた。