第57章 洞観
エルヴィン団長はやれやれ、と片眉を上げて困った顔をした。
「―――――リヴァイと二人きりになった時も、自然とそうなっただろう?」
「――――――…………。」
その問になんと答えればいいのか。私は何も言えずに俯いた。
「―――――意地悪だったな。すまない。」
エルヴィン団長は低くそう言って、その腕を解いた。
「―――――もうおやすみ。」
そう言って私から身体を離し、まるで子供をあやすように頭を撫でてくるエルヴィン団長の襟元を掴んで、精一杯の背伸びと、精一杯の力でその身体を引き寄せ、ぎゅっと目を固く閉じて唇を合わせた。
「―――――!!」
ほんの一瞬の唇の触れ合いを離してその目を見上げると、エルヴィン団長はとても驚いた顔で私を見下ろしている。
「―――――エルヴィン団長を、拒否したいわけでは……ないです。それは―――――わかって、欲しいです…………。」
もごもごと口ごもる私を優しい目で見つめて、その大きな身体でふわりと抱きしめてくれた。
「――――嬉しい。ありがとう、ナナ。」
―――――――――――――――――――――
ナナが赤い顔をしたまま団長室を去って、エルヴィンはその椅子の背に深く沈みこんだ。
「―――――………リヴァイに偉そうに言ってたくせにな………。」
そう小さく零して、ナナの漏らした声や固く閉じられた目を縁取る銀糸のような長い睫毛、ふわりと浮くような細く柔らかな髪とその香り、全てを反芻しながら頬杖をついた。
「―――――抱いてもいないのに、早くも溺れそうだ。」
外の世界のこと以上に自分がこんなにも興味を惹かれるものがこの世にあったなんて、知らなかった。
そんなことを考えながら、もう一仕事を終えるべく、エルヴィンは再びループタイを首に締めて調査兵団団長の顔を取り戻した。