第57章 洞観
あまりに正論ぽくこじつけたことを言うので、意地悪をしてみることにした。
「――――――That’s just a twisted logic……。」
エルヴィン団長に分からないように、異国の言葉でため息交じりに嫌味を小さく零すと、エルヴィン団長は私の耳元で動じることなく悪戯に囁いた。
「――――――I know.」
「―――――……意味、わかったのですか………?!」
「君もなかなか意地が悪い。―――――ますます好みだ。」
まさか的確に、しかも完璧な発音で返されると思っていなくて、逆に動揺を被ったのは私のほうだった。
捕われたまま耳を食まれ、外耳を舌でなぞられると、良くない声を漏らしてしまう。
「―――――…………ひぁ………っ…………!」
「―――――強気な君から漏れるその弱々しく可愛い声がたまらない。」
「―――――っや、だ…………やめて、くださ……い……!」
「こんなに可愛い声を聞かせておいて、無理な注文だ。」
「お酒、飲んで、ないです……っ……!」
「―――――ん?」
「お酒、飲んでから同じ部屋に――――――、来たわけじゃない、のに……っ!こんなことになるなんて聞いてな………!」
私の言葉に、ようやくエルヴィン団長のその手と舌の愛撫が止んだ。かと思うと、くくっと小さく笑いながら私を諭す。
「―――――ナナ。それは好き合っているわけじゃない男女の場合の大人の常識だ。」
「え………?」
「好き合っている男女が………仮にも未来を一緒に歩むと約束した男女が同じ部屋にいたら、酒の力などなくてもこうなるさ、大抵は。」
「えぇっ………そんな、ほぼ毎日同じ部屋にいるんですけど……!心臓も身体ももちません……っ……!」