第57章 洞観
「指示通り、今日の窃盗事件の事を聞かされてから、俺に声を掛けてきた人物の名前と内容を記録しました。」
「――――あぁありがとう。助かるよ。」
「では、俺はこれで。」
ケイジさんはきびきびとした動きで、再度敬礼をして団長室を出た。エルヴィン団長がメモを開くと、その口の端がわずかに引き上げられた。
「―――――てめぇのその顔は、まるで悪人だぞエルヴィンよ。」
ため息交じりにリヴァイ兵士長がエルヴィン団長を揶揄する。
「――――いや、気になる言葉を掛けて来た人物がいるなと思ってね。」
エルヴィン団長が、横に立っていた私に目くばせをしてメモを指さした。読み上げろ、ということだろう。
私はエルヴィン団長の横からその文字を覗き込んで読み上げた。
「『お前、何か知ってたか』――――――……。」
「―――――確かに、変だな。」
ミケさんがぴく、と反応した。
「―――――……そうだね、何も知らない人間が他愛ない会話で聞くなら『何か見たか』か、『何か知ってるか』になるはずだ。」
「――――俺はこの件を聞いてない、とでも言いたげだな。―――――そいつ………マシュー・ブライトンだろ。」
「!!!!」
リヴァイ兵士長の言葉に唖然とする。
なぜ、メモも見ていないのに――――――この発言がマシューさんのものだと、わかったのだろう。リヴァイ兵士長がずっと行動を観察していたのも、確かにマシューさんだった。
「そう、です………。なんで、わかったのですか……?」
「―――――訓練の時に見てりゃわかる。あいつはケイジと同じように、一般兵から入団したと言っていたが―――――、訓練の最中にアンカーの片方が外れてバランスを崩した時があった。奴は一瞬で態勢を立て直して、こともなく訓練を続けた。――――――たかが一般兵の半年の訓練で、そんな芸当ができるはずがねぇ。怪しすぎるだろ。」
「――――さすが兵士長、だな。」
ミケさんが小さく賛辞を述べる。