第56章 事件
「なぜそう思う?」
私は戸棚の琥珀色のお酒が入った高級そうな瓶を指さした。
「あれは昨日、ここにありませんでした。今日購入なさったのでしょう?荷物として袋を預かった時、ちょっとした違和感がありました。袋の中がやけにガランとして、まるで何か抜き取ったみたいだな、って。」
「―――――………。」
「ナッツや紅茶、コーヒーも……嗜好品としてお酒と同じ店で調達してきたようなものが多かったので、きっとあの紙袋には、もともとあの瓶も入っていたんじゃないかな、と思いました。」
「―――――………。」
「驚きのあまり、私が紙袋を落としてしまったので――――――、紙袋にあのお酒が入ってなくて、本当に良かったなって。」
私が憶測を口にしてから、紅茶をすすると、エルヴィン団長は上機嫌な笑みを見せながら、人差し指を立てて口元に当てた。
「――――答え合わせは、明日にしよう。」
「―――――はい。」
「それはそうとナナ。」
「はい?」
「―――――君自身に委ねていた答えは、出してくれたのかな。」
その一言に、ドクンと心臓が跳ねておかしな汗がにじみ出る。
「―――――あの酒は、リヴァイへの貢ぎ物だ。」
「――――――………!」
「君の代わりになるほど、酔える酒を寄こせと言ってきた。リヴァイに、別れを告げたのか?」
「………リヴァイさんとは、確かにただの兵士と兵士長に、戻りました……。でもまだ、正直気持ちがついて行っていないんです………。苦しくて苦しくて、こんな弱い自分が、心底嫌いになりそうです………。」