第56章 事件
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団長室の片付けを終えて、ふっと一息つくと、エルヴィン団長が紅茶を淹れてくれた。
「えっ、あ……すみません、ありがとうございます……!」
「いやこちらこそ、助かったよ。」
私は促されるままにソファに座って、カップを両手で包み込んだ。
「―――――あ、新しい茶葉ですか。いい香り………。」
「わかるか?珍しいものだと聞いて、君に飲んで欲しくてね。」
「ありがとうございます。」
エルヴィン団長も向かいに座って、薄く笑みを零しながらコーヒーに口を付けた。
私はあの荒らされた部屋に入った時から感じていた小さな違和感とエルヴィン団長の表情から、抱いた疑問を投げかけてみることにした。
「―――――エルヴィン団長は、犯人を見ていないんですか?」
「―――――見ていないよ。」
「本当に?」
「………?どうしてだ?何を疑う?」
「―――――だって、私と部屋に入る前………どれくらい前かはわからないですが、帰着されてから一度部屋に―――――戻られてますよね?」
エルヴィン団長の目が見開いて、静止した。
そしてすぐに好奇の目を私に向けた。