第56章 事件
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「――――――ナナからリヴァイの匂いがしなくなったな。何かあったのか?」
団長室から出たミケが、ハンジに向かって小さく呟いた。
「―――――そうか、ナナは―――――選んだのか、エルヴィンを。」
「―――――それにしては、ナナが不安定な匂いがしたぞ。ナナからエルヴィンの匂いもしなかった。」
「………幼い頃からのリヴァイとの時間を、想いを―――――そう簡単に割り切れないよね。もっと狡く生きられたら楽なのに―――――あの子もなかなか難儀な性格だ。ねぇミケはどう思う?」
「――――――ナナのことはまだよくわからんが――――――………、リヴァイは―――――……その強さゆえに、守ることこそが生きる意味になる奴だ。最も守りたい女を手放した分、もっと大きな――――――この調査兵団丸ごと……いやこの世界までも、守る気でいるんじゃないか。」
「思ったよりよく喋るじゃないミケ!!そして私も同感だよ。ナナも、それもあってリヴァイから離れたのかもね。最近戦闘の訓練まで始めたって聞いたし………リヴァイから守られる立場を卒業したということか。まぁあとは―――――団長補佐に就いてから、ナナはエルヴィンの脆さも見えてきたはずだ。それを支えたいと思ったか、ってとこかな?」
「―――――その垣間見せた脆さ自体、エルヴィンの策だったかもしれないけどな。」
「そうだよねぇ……。ほんと怖いからな、あの人は。」
「―――――だから命を預けられる。」
「―――――ふふ、違いない。」
ミケとハンジは笑い合いながら、団長室を後にした。