第56章 事件
―――――それにしても、あのナナが………リヴァイ無しでは生きて行けないのかと思うほど、その存在に寄りかかっていたナナが。
自分の意志で決めたのか。
リヴァイと離れ、俺と夢を追うと?
にわかに信じがたかった。
いや、そうなるように散々策を講じて来たのは自分だが。
いざ手に入りそうだと思うと、全くもって実感がわかなかった。
笑みを抑えられずに、引き出しから翼のネックレスの入った小箱を取り出す。
「―――――君は受け取ってくれるのかな。」
そう小さく独り言を溢したその時、扉が鳴った。
「ああどうぞ。待っていたよ。」
私が入室を許可すると、その彼はちらりと団長室を見回して歩を進めた。手でソファにかけることを促すと、小さく会釈をしてから腰を下ろした。
「―――――緊張しなくていいよ。楽にしてくれ。君を見込んで、さっそくだがひとつ頼みたいことがある。」
「―――――はい。」
「近々起こるであろう小さな事件のあと、君にそのことについて聞き出そうとしたり、話しかけてきた人物と内容を全て記録し、報告してくれ。」
「―――――小さな事件、ですか。」
「あぁ。必ず起こる。頼めるか。」
「―――――わかりました。」
彼は緊張した面持ちで、静かに首を縦に降ってその役目を引き受けてくれた。
「それと―――――その折はずいぶん待たせる形になってしまって、悪かったね。」
「いえ。それで俺が役に立てる事が増えたなら、有り難く思います。」
「――――君の正義感と使命感には感服する。頼りにしているよ。」
正義感に燃えた目をした彼と固く握手を交わし、彼は部屋を出た。