第56章 事件
私の言葉に、リヴァイが一瞬目を開いて静止した。
「――――――いや、俺は任務を全うすることが第一だ。俺の行動は多くの兵士の命を―――――作戦の行く末も左右する。それぐらいの自負はある。」
「―――――だからだろう。」
「あ?」
「―――――お前の足を引っ張らないようにするため、自分の身は自分で守ろうとしているんだろう。実にいじらしいな。」
「―――――………。」
リヴァイは目を細めてナナを見つめる。
だが、なぜかその表情は苦悶に満ちていた。最愛の女性が自分の為に頑張る姿を認められないのはなぜか。その理由はその後のリヴァイの口から語られた。
「―――――俺の、じゃねぇよ。」
「なに?」
「―――――お前の足を引っ張らないようにしようとしてるんだ。隣に並んで、同じ夢を追いたいと言って―――――――俺の元を去った。あいつの誕生日の前日―――――それを最後に、俺はあいつに指一本触れてねぇ。」
「―――――………。」
「―――――ナナを泣かせたら殺す。」
リヴァイが殺気を隠そうともせず、私を睨みあげる。そんな目ができるのは、まだナナがリヴァイの中で特別な存在で居続けている証拠だ。おそらくそれは、一生変わることはないのだろう。
「………はは、お前が言えた立場か?嫉妬に駆られて散々ナナを嬲って……泣かせただろう?」
私の言葉にリヴァイが苛立った様子で壁にどんっ、と足をつき、私を睨む。まるで刺すように鋭利な視線で。
「―――――………。」
「―――――……カマをかけただけだ。ナナはそんなことは一切喋らない。お前の話をするときは、ただただひたすらに――――――幸せそうだったよ。」
「―――――クソが………。」
リヴァイは私の椅子を壊す気かというほどに強く蹴り飛ばした。
「―――――物に当たるな、見苦しいぞ。」
「――――うるせぇ。もう行く。――――――あぁそうだ。」
「なんだ?」
「―――――ナナを手放してから、どうも眠れねぇ。あいつの代わりには到底ならねぇが、せめて俺に最高に酔える酒を持って来い。」
「―――――考えておこう。」
チッと舌打ちをして扉を出て行くリヴァイの後ろ姿を見送った。