第55章 南方駐屯訓練兵団
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訓練では、立体機動を使って訓練兵とトレーニングをすることになった。簡単に言えば、鬼ごっこだ。
私たち3人が鬼で、訓練兵たちが逃げる。
小回りの利くリンファにとって、こんなトレーニングは朝飯前といった様子だった。まだ訓練経験の浅い子達を私が追い、上級生をサッシュさんとリンファが追う。
「―――――てんで相手になってねぇぞ!お前ら!!」
サッシュさんが快活に笑う。もうほとんどの訓練兵を捕まえてしまった。
「――――これが調査兵団……っ……すげ……!」
「なんだよあの黒髪の女の人の読めない動き……やべぇな……。」
「おい、本当にあの人訓練兵団抜きで2年でここまで速いのか……?!」
なんとか調査兵団の威厳を見せつけられそうだと思った時、サッシュさんですら手を焼く一人の小さな女の子の姿が目に入った。
「――――――ミカサ……?!」
黒髪をなびかせ、上級生ですら及ばないような完成度で立体機動を操りサッシュさんの追跡を巻く。
「――――――くっ、はえぇ………悔しいが……――――――リンファ!お前じゃなきゃ無理だ!!!」
「――――ああ!」
サッシュさんと交代し、リンファがミカサを追う。
残りはあっという間にミカサ一人だ。
周りの訓練兵からも声援が飛ぶ。そのミカサを、誇らしげに、どこか悔しそうに見つめるエレンがいた。
「―――――この人、すごい………。」
リンファがあっという間にミカサに詰め寄る。
ミカサの顔に焦りが見えた瞬間、刺さりが甘かったのか、ミカサのアンカーの片方が外れて大きく態勢を崩した。
地面に叩き付けられると息を飲んだが、その瞬間、リンファがミカサの身体を受け止めていた。
「――――――!!」
「――――――捕まえた。やるね、あんた。」
「――――………。」
ミカサは悔しそうに、機嫌が悪そうに眉を顰めてリンファを見上げ、フイッと顔を逸らした。
「―――――ミカサが負けるところ、初めて見た………。」
「―――――すげぇな、調査兵団って………。」
リンファのこれまでのひたむきな努力が成しえたその神業とも言える立体機動は、訓練兵団の子達はその心を掴みとったようだった。