第54章 勧誘行脚
訓練を終え、サッシュさんと合流してから3人で教官に挨拶に出向いた。
「今日はありがとうございました。」
「いや、こちらこそ訓練兵にとってもいい刺激になった。礼を言おう。―――――リンファもサッシュも、成長したな。元教官として、誇らしいよ。」
強面の教官が、ふっと笑顔を見せた。
サッシュさんとリンファは少し照れながら、嬉しそうに2人で目を合わせた。
「――――あぁそうだサッシュ。アーチはどの兵団に入ったか、聞いたか?」
「あ、はい。憲兵団に入ったと………。」
アーチ?誰だろう…と私が会話の流れを読もうとやりとりを目で追っていると、リンファが肘で私をつんつんとつついて、小さく耳打ちしてくれた。
「アーチは、サッシュの弟。今年この訓練兵団から、憲兵団に入団したんだ。」
「そうなの………!」
「お前と同様に、アーチも抜きんでて優秀だった。去年の成績トップだ。ただ心配しているのは、その実力に見合わない気の弱さと優しすぎるところだな。お前の傍若無人ぶりを分けてやればいいのに。」
「まぁあいつは昔からそうなんで。そのくせ、なにやっても俺より優れてる―――――嫌味な弟っすよ。」
「はは、頼もしいじゃないか。憲兵団もなかなかの曲者ぞろいだ。せいぜい弟の様子を気にかけておいてやれ。」
「―――――はい。」
サッシュさんの様子がいつもと変わったのは、年が明けてから。実家から戻って来てからだった。
弟さんが訓練兵を卒業して、今年から入団しているのなら、合間の年末年始に帰省している可能性が高い。
もしかしてその時に実家で弟さんとなにかあったのだろうか――――――。
でも余計な詮索はせず、サッシュさんが私たちを頼ってくれたら―――――その時に最大限のできることを、考えることにした。