第54章 勧誘行脚
「―――――いあぁビビった!どんな空気にしてんだよナナ!」
教壇を降りて部屋を出てから、サッシュさんに背中を軽くはたかれる。
「ご、ごめんなさい……。」
「いいじゃないか。覚悟がある者を引き寄せるいいスピーチだったと思うよ、あたしは。――――だって………仲間が目の前で死ぬのも、自分の無能さに打ちひしがれるのも、全部事実だ………。甘ったるい幻想を抱いて来られるより、いいじゃない?」
「――――まぁ、確かにな。」
リンファにフォローさせてしまうことになり、恥ずかしくて体を小さく丸める。
ただ、お気楽な覚悟での入団は避けて欲しかった。エルヴィン団長もきっと、そう言うだろうと思ったんだ。
次の時間は訓練だ。
立体機動訓練では、私とリンファ。実践訓練にはサッシュさんがそれぞれ分かれて参加した。
訓練兵に混ざって、立体機動の課題を出されたものをこなしていく。木々の合間を縫って、それぞれポイントの場所に置いてあるリボンを回収しながら目的地まで辿り着く。
そのスピードをチェックされるようだ。
「うわ、わくわくするねリンファ!」
「そうだな、そういやナナはほぼ実践に近い形から習ったから、こんなのは初めて?」
「うん!頑張らなくちゃ!」
鼻息を荒くする私を、リンファが笑ってポンポンと頭を撫でた。
「次!では調査兵団、お手並み拝見といこうか!」
教官の声が飛んだ。
「私、行くね?リンファの神がかった立体機動は、最後にとっておきたいから!」
「変なプレッシャーかけんなよ!」
リンファとお互いの掌をパン、と合わせてから、私は飛んだ。
―――――楽しい。
まるで自分が鳥にでもなったよう。そうだな、鳥の中でも猛禽類だ。
獲物を狙って無駄なく、最短のルートでゴールを目指した。
「えっ、訓練兵経てないんじゃ……っ……。」
「はや……っ…・・!?」
「入団して立体機動始めて、2年でこのレベル……?!」
「――――かっこいい………!」
訓練兵からの評価はなにやら色々飛んでいたようだが、もちろん聞こえるはずもない。
私は無事全部のリボンを回収し、遠くに見えるリンファに大きく手を振った。