第54章 勧誘行脚
「――――私は、ナナ・オーウェンズと言います。調査兵団に入団して2年目です。――――元々の職業は、医者でした。」
本名と元の職業を述べるとまたざわつく。が、気にしない。
「私の生家は王都で病院を経営しています。自然に私は医師になる道を選び、経験を積むため、シガンシナ区の小さな病院で働いていました。毎日毎日たくさんの患者さんで溢れかえり、大変ながらも充実した日々を送っていました。―――――ですがあの日、それは現れた。巨人の襲撃によって、私が救って来た多くの命が一瞬で奪われました。――――偶然私は助かりましたが、助けたいと願った人たちを、それはそれはたくさん、亡くしました。私は、無力だった。」
思い返すと、どうにもいたたまれず視線が下がる。悔しい想いを堪えるように、拳に力を込めた。
「――――今も――――――土地を奪われ、仕事を奪われ、何もかも奪われた人たちが、死んでいっている。もはや、私という一人の医者が数人の命を救うだけでは、到底追いつけない程の命が、失われ続けている。だから私は、壁外に人類が生き続けられる道を見つけることができる可能性を秘めた、調査兵団に入りました。」
私の言葉に、ざわついていた空気が静まり返った。
そんな中、一人の女性の訓練兵が静かに手を挙げた。茶色い髪を後ろで束ね、他の訓練兵より少し年上なのか、落ち着いた雰囲気だった。
「―――――訓練兵、リーネです。質問してもいいですか。」
「はい、リーネさん。」
「――――訓練兵期間を経ずに、医者から調査兵団にいきなり入ったってことですよね?」
「はい。」