第54章 勧誘行脚
去年の誕生日を祝ってくれたときの約束通り、誕生日当日の夜は親しいみんなが集まってくれて、楽しい時間を過ごした。
そこに、もちろん不器用に描かれた絵はなかった。
あぁもう終わったんだと流れる涙を嘘で固めて嬉し涙にすり替え、なんとかその場をやり過ごした私の心は、穴が開いてしまったようだった。
それから執務と訓練に打ち込んで夢中で過ごしているうちに、出発の日はすぐにやって来た。まだ夜が明けないうちから、荷物を馬に積んで準備をする。
「――――そう言えば、サッシュさんとリンファは西の訓練兵団を卒業しているんだよね?」
「ああそうだよ。」
「じゃあ懐かしい教官にも会えたりするかもね。」
リンファは人差し指で頬をぽりぽりとかきながら昔を思い出している様子で、苦い顔で言った。
「――――……地獄みたいな日々だったからな……。正直あんまり行きたくないというか……。」
「――――そっか……。」
「……あぁ、俺も同じだな。」
西を外して考えるべきだったかとも思ったが、あくまでこれは調査兵団の勧誘が目的だ。
2人には申し訳ないけれど、ここは割り切ってもらって、早く西を終えてしまってからその後の旅程を目一杯3人で時間を共有しようと、明るく振る舞った。
「――――今いる訓練兵と面識はないはずだから………、訓練兵にとっては、調査兵団で隊長を任されて活躍する……憧れの存在に映るよ、きっと。私は2人の実力を早く訓練兵の皆さんに見せたくてうずうずしてる!」
私の言葉に、2人は少し驚いたような顔をして、笑った。
「―――――あぁそうだな。あたしらのようになりたいと思わせるのが仕事だった!せいぜい魅せてやるよ、あたしの実力。」
「任せろ、俺は巨人の模型をズタズタにしてやるよ!」
「壊しちゃダメですよ、サッシュさん。」
なんとか和やかな空気で兵舎を発った。