第54章 勧誘行脚
20歳になったその日、エルヴィン団長に私がオーウェンズ姓を名乗ることに決めた意志を伝えた。
「名前を戻したい?オーウェンズの姓にか?」
「――――はい。想像ですが、おそらくナナ・エイルは調査兵団内の呼称のみで、兵団への申請書にはナナ・オーウェンズで登録頂いている……のですよね?」
「――――バレていたか。実はそうなんだ。」
「夜会でザックレー総統にご紹介頂いた時に、確信しました。―――――元々私の子供じみた意地で、余計な手間を増やしてしまっていたこと、申し訳なく……。」
「いや。それだけの覚悟と葛藤があったんだろう?君の想像どおり、調査兵団内のみの呼称を変更すればいいだけの話だ。そしてもう君のことは“ナナ”で通っているからね。特に他の兵の混乱を招いたりすることもないだろう。書き換えておこう。」
「ありがとうございます。」
「エイルという名を封じる――――それほどの心境の変化があったのか?」
「――――はい。」
「―――――まぁその話はおいおいゆっくり聞くとしようか。さて、勧誘行脚の準備は順調か?」
エルヴィン団長は薄く笑って、手元の資料へと目を移した。
「はい、西から王都を突っ切って東へ、最後に南を回って最短5日で組もうかと思っていますがいかがですか。」
「――――その理由は?」
「訓練兵の対巨人の感度は、おそらく南に行くほど高いです。あの惨劇の日を経験している者も多いと思われるので……。5日間で回れるのはせいぜい3拠点ですが、南は必須。西と東もそれぞれ壁外調査の出発点として使われているため、調査兵団を見聞きしたことがあり感心があるのではないかと。感心がある層に訴えかけるほうが効果的かと思い、北を省きました。」
「その根拠なら問題ない。任せよう。」
「ありがとうございます。」
「速やかに準備、予定通り進められるようサッシュとリンファとも調整してくれ。南、西、東の訓練兵団には私から書状を送っておこう。」
「はい。」