第53章 惜別 ※
「私は強欲で我儘なので。」
「あと淫乱だろ。」
「うるさいですよ。リヴァイさんのせいでしょう?」
ふくれるナナの下唇を柔く噛み、そのまま啄む位置を頬から耳に移していく。
「―――――強欲で我儘なお前は、何を思ったんだ。」
「―――――リヴァイさんの中にこうして溶けちゃえたら、二度と離れることなく、しかもエルヴィン団長と同じ夢を見られるなって。そしたら最高なのになって。そんな妄想ばっかり、してました。」
「―――――…………。」
「――――あぁ…………私なんて消えてもいいから、本当に……溶けちゃえ、ないかなぁ……っ………。」
ナナの声は、震えていた。
溶けあいたいと願うように身体を合わせて目を閉じる。
ほんの一瞬の、夢を見た。
出会った頃の―――――いや、もっともっと小さなナナが俺の腕に飛び込んできて、俺はそれを抱き締める。
生きる意味を、この手に抱いた瞬間の夢だ。
「――――時間だ………。」
時計の針が0時を指す少し前、ナナは俺の腕を抜けて、律儀に全ての跡形を消すように衣服を整え、テーブルとソファも拭き上げて、俺に背を向けた。
時計の針がカチ、とその時を指した。
「―――――こうも祝いたくねぇ誕生日があるとはな。」
「――――ふふ。」