第53章 惜別 ※
「―――――ナナ・オーウェンズ。」
「はい。」
「ここからは兵士長と兵士だ。こき使ってやるから、覚悟しとけよ。」
ナナはまだ背を向けたまま、ぎゅっと拳を握りしめた。
「―――――はい……!」
「―――――エルヴィンと歩む道もなかなか険しいぞ。たまになら泣き言ぐらいは聞いてやる。いい紅茶かいい酒を持ってくればな。」
俺が嫉妬の混じった嫌味を言うと、ナナは振り返って笑った。
「――――ありがとうございます。リヴァイ兵士長。」
その姿はとても不安定で、泣いているのか笑っているのか、辛いのか悲しいのか嬉しいのか、まったくもって読めない、複雑な表情だった。
あいつが飲み込んだそんな覚悟を、俺も無下にするわけにはいかない。
調査兵団の兵士長としての俺を全うしよう。
それが、エルヴィンとナナの夢を叶え、人類を救うことに繋がると、そう信じて。