第53章 惜別 ※
「―――――ずっと、私だけのヒーローでいて………。」
想い合う男がいるのに、他に気持ちが揺らぐ。ただその程度の小さな火種すら自分を汚いと嫌悪していたナナが、最も嫌悪していたはずの姑息で狡い女の我儘を口にする。
それはその言葉がいかにナナの本心だったか、想像するのは容易かった。
「―――――甘えるな。お前がただのリヴァイとしての俺を求めねぇなら、俺は調査兵団の兵士長としての俺を全うするだけだ。明日から、お前に特別な感情を持つことはない。」
―――――嘘だ。
無理に決まっている。
どうやったって俺は、エルヴィンからナナを取り戻す隙を伺うのだろう。
だが俺の言葉を聞いたナナは、涙を流したまま、小さく微笑んだ。
「――――だから、今この瞬間だけだ。俺も本心を伝えよう。」
もう何度重ねたかわからないナナの唇に、その感触を刻むようにゆっくりと、確かめるように口付ける。
「―――――ナナ、好きだ。……愛してる。お前が、愛しい………っ………。」
「リヴァイさ……、もっと、呼んで。私を………ぁ……っ………。」
「――――ナナ。……行くなナナ。側にいろよ………ナナ―――――……。」
深く舌を絡め、ナナの瞼、頬、耳、あらゆる箇所を記憶するようにキスをした。
ナナの身体に埋め込まれた漆黒の石を指で撫で、思い返す。
ナナの耳に光るその石を選んだのは、こうなる日が来るのが分かっていたからかもしれない。