第53章 惜別 ※
「―――――お前を余すところなく脳裏に刻む。抱かせろ。」
そう一言言うと、その唇が触れる。
少し震えていることに、私は気付かないふりをした。
好きだと言いたい。
愛してると言いたい。
その言葉を飲み込むように、口付けに応えた。
やがてお互いの息が上がり唇を離すと、2人の唇を銀糸が繋いだ。それを親指で拭うと、何かに縋るようにリヴァイさんはグラスの琥珀色の液体を自らの口に流し込む。
喉が上下するその様が煽情的で、その様子を眺めながら些細な質問を投げかけた。
「――――……ウイスキー……ですか……?」
「―――――……あ?」
「リヴァイさんが飲んでいるのは、ウイスキーか、ブランデーだって………。」
リヴァイさんの眉が一瞬動いた。
次の瞬間かたん、と音を立てて乱暴にグラスがテーブルに置かれ、その衝撃で琥珀色の液体が跳ねた。
「―――――そう、エルヴィンが言ったんだな?」
「―――――っ………。」
私はなんて馬鹿なことを口にしたんだろう。
リヴァイさんのその目に宿ったのは、荒まじい苛立ちだった。
両腕を掴まれ、ソファに乱暴に押し付けられる。
あっという間にシャツをまくり上げられ、身体を晒される。
「―――――エルヴィンに言っとけ。ナナの代わりになるような最高級の酔える酒を持って来いとな。」
そう言ってグラスに僅かに残った琥珀色の液体を私の身体に撒いた。
「……………あ……っ……………!」
「―――――黙ってりゃ優しくもしてやれたのに―――――、お前のせいだナナ。―――――まあちょうどいい。最後の最後まで身勝手で乱暴な抱き方しか出来ねぇ男なんて――――――早く忘れちまえ。」