第53章 惜別 ※
「―――――リヴァイさん。私は、日が変われば20歳になります。」
「――――あぁ、そうだな。」
「20歳になったら、ナナ・エイルから、ナナ・オーウェンズに戻ります。」
「…………。」
リヴァイさんは黙ってグラスを傾けた。
「もう私はあの頃の少女じゃない。そして、自分の家から逃げて来た無力な2年前の私でもない。自分で悔いのない選択をして、自分の人生に責任を持って歩む、大人になります。」
「………そうか。」
言いたくない。
言わなきゃ。
言いたくない。
言いたくない。
言いたくない。
そんな心の葛藤などまるでないかのようにまっすぐにその目を見つめて、表情・声色全てを虚勢で固めて告げる。
涙など、僅かにでも滲ませてはいけない。
「20歳になった私が選ぶのは――――――エルヴィン団長の横に並べるように力をつけて、共にこの世界の真実を暴き出すために生きる道です。」
「―――――………。」
リヴァイさんの表情は、変わることがなかった。
悲しみでも、怒りでも、諦めでもない、ただただ変わらぬ表情で私を見つめた。
私は何を期待していたのだろう。
止めて欲しかったのか、縋って欲しかったのか。
そんなことを彼がするはずない。
無理矢理縛り付けて閉じ込める愛し方から、変えようと努力してくれた。
私がどんな選択をしてもそれを受け入れるのが、俺の愛し方だと言っていた。
「―――――そうか、わかった。―――――賢明な判断だ。」
リヴァイさんはいつだって有言実行で、私の選択を受け入れてくれた。それを寂しいと思うなんて、私がどうかしているんだ。
「―――――話はそれだけか。」
「………っ………はい………。」
なんてあっけない。
もう戻れない。
あの幸せな日々を、私は自ら捨てるのだから。