第53章 惜別 ※
「―――――リヴァイ兵士長、ナナです。」
「―――――入れ。」
自分で選べと言われてから私は一度もリヴァイさんの部屋には行かなかった。
でもどうしてもこの日に、話をする必要があった。
リヴァイさんの許可を聞き届けてから久しぶりに兵士長の執務室の扉を開くと、すでに私服に着替えたリヴァイさんは、お酒を片手にソファに座ったままこちらを見た。
私はその隣に、兵士と兵士長の距離を持ってソファに座った。
「―――――何か、飲むか。」
「―――――いいえ、今日は………結構です。」
「―――――そうか。」
空気が軋むような沈黙が流れる。
グラスを傾けるリヴァイさんを見つめると、その黒髪の隙間から覗くそのグレーがかかった黒い瞳は、まるで私のピアスについている宝石のように綺麗だ。
10年前から私はリヴァイさんの事をこっそり盗み見ては、その美しさにうっとりしていた。
すぐに視線に気付いてこっちに目を向けてくるから、長くは見つめられなかった。
けれど今、私が見つめるよりも長く長く、リヴァイさんから私のことを見つめてくれる。
視線が絡む。
―――――一生私のことだけ見てて。
そんな、口が裂けても言えない強欲でズルい女の戯言を飲み込む。