第53章 惜別 ※
それからしばらくして、訓練兵への勧誘行脚の話がいよいよ現実的になってきたところでサッシュさんとリンファに伝えると、飛び跳ねて喜ぶリンファに対して、サッシュさんはどこか心ここにあらずと言った様子だった。
年が明けてから、サッシュさんがなぜか少し元気がない。
「――――なぁ、サッシュの奴なんか変だよな?」
「リンファもそう思う?」
「だって―――――あいつはいつもこの時期、新兵の可愛こちゃん探しにギラギラしてんのにさ。」
リンファが鼻をふん、と鳴らして言う。
おそらくその行動をしなくなったのは、リンファがいるからだよ、と教えてあげようかとも思ったけれど、サッシュさんの意としないところで余計なことをするのもどうかと思いとどまり、勧誘行脚の中で何か変化があればいいなと私は小さく笑みを零した。
しばらく執務も多くてゆっくり話す機会もとれていなかったから、5日間3人で行動を共にするその間に、サッシュさんになにか困っていることがあるなら、何か力になれるといいのだけれど。
「ナナは5日間も兵長と離れるのが寂しかったりして?」
ヒヒっと茶化して笑うリンファに話す事が、私は怖くなった。あんなに応援してくれていたのに。
私の下す決断を知ったら、リンファにも嫌われてしまうんじゃないか。そんなことが頭を過る。
それでも、けじめをつけると決めたから。