第52章 盤上
「やめてくだ、さい……!」
「嫌だね。」
力の限り顔を背けて抵抗してみても、口元に悪戯な笑みを浮かべたまま、エルヴィン団長は私を食らおうと私の輪郭を押さえて自分の方へも向き直させる。
徐々に見せるようになったエルヴィン団長の大人で紳士な仮面の下は、リヴァイさんよりよほど強引で欲しいものを手に入れようとする子供のようだ。
「……せ、節操のない大人は軽蔑に値します……っ!嫌いになりますよ…………っ………!」
精一杯の抵抗としてエルヴィン団長を睨みつけて、私の持ちえる反抗の術を言葉にして投げつける。
「…………なれるものならなってみればいい。…………気付いているだろう?君はもう私の仕掛けた罠にはまっていて、あとはもうじわじわとその毒に冒されるのを待つだけなんだと。」
「―――――………っ………!」
この人は自分の発する言葉をこれまでいくつも現実化してきたのだろう、その自分の力を熟知している。
発せられる色気と支配力に、身体が震える。逆らえない。
「―――――早く腹を括ったほうがいい。俺が、こうして君の意向を確かめてあげているうちに。」
「―――――…………。」
「でないと――――――……強制的にその身体に自覚させるしかなくなる。俺もそう気が長いほうじゃない。」
エルヴィン団長の指が、頬から首筋へ、そして鎖骨へ移り、やがてブラウスの襟を押し下げてその下に滑り込もうとする。
「―――――っ………ん…………!」
息を殺して抗っても、その指に翻弄されて吐息が漏れる。
ちらりと見上げるエルヴィン団長の表情は、一切動じることも興奮している様子さえも見せず、私を弄ぶように見下ろしている。
―――――悔しい。
リヴァイさんのように、愛しすぎて我慢できないと言うように切なく触れてくるのなら胸も高鳴るけれど、まるで他愛ないことのような顔のエルヴィン団長にこんなにも翻弄されることが、悔しかった。