第52章 盤上
残りの残務を終え、エルヴィン団長のコーヒーカップを片付けると、エルヴィン団長が仕事を終えてスイッチを切り替えるように、髪を手櫛でならして一息ふっと吐いた。
「――――では今日はこれで失礼します。」
「ああ、ありがとう。――――最後にこの読みと意味を教えてくれないか?」
エルヴィン団長がワーナーさんの日記を指で指し示した。私はエルヴィン団長の横にまわり、そのノートを覗き込んだ。
「あぁこれはforbidden……禁じられた、という意味ですね。」
答えたと同時に、当たり前のように引き寄せられてその膝の上に捕われてしまう。
「――――……今の流れで抱きしめる必要が私には到底見いだせなかったのですが?………これからエルヴィン団長の半径1m以内には近づかないことにします……。」
「それは執務に差し障るじゃないか。」
もう慣れた、とため息交じりに棘を持った言葉を言ってみても、もちろん通じるわけもなく。
「―――――今年の君の誕生日を私に祝わせて欲しいんだが。――――――まだ、その心はリヴァイのものか?」
「…………。」
とても、嫌な問だ。
そうだと言いたい。
どうしたってリヴァイさんを愛していることに変わりない。
なのにこの状況に甘んじてる時点で、おかしいじゃないか。
「揺らいでるんだな。私にとっては良い傾向だ。」