第52章 盤上
「――――ザックレー総統、エルヴィンです。」
「ああ、入ってくれ。」
扉が開くと、チェス盤の前に座る私を見てエルヴィン団長はふっと笑った。
「――――うちの補佐官は、相手になりましたか?」
「ああ、なかなかいい筋をしている。だが―――――素直で実直で幼いな。お前のような裏の裏の裏をかいて来るいやらしさがない。」
「――――褒め言葉だと受け取っておきます。」
エルヴィン団長とザックレー総統は小さく笑みを交わした。
「では総統。私たちはこれで失礼します。」
「ああ。」
「ザックレー総統。大変貴重なお話と対局の機会をありがとうございます。光栄でした。」
私は深く礼をした。部屋を出ると、エルヴィン団長が驚いたように言葉を零した。
「――――あの人が初対面に近い人間をチェスに誘うとは。驚いた。」
「そうなのですか?沢山お話が聞けて、とても有意義でした。次は勝ちたいです。」
「――――……君は、すごいな。」
小さな笑みを零して、私の頭を撫でてくれた。