第52章 盤上
分かっていたつもりでも、分かっていなかった。それを提示されて、自分の至らなさに気付く。
「―――――お恥ずかしいです………。」
「…………。」
「――――私の知る王政側の人間は――――まるで今までと変わりない贅沢な暮らしをしています。それを目の当たりにして……私は、ウォール・マリアを奪還しない理由が、王政にまつわる彼らに現在不利益がないからだと、思っていました。国民も壁を取り返したいと思っているに、決まっていると――――――思い込んで………。」
「――――まぁあながち間違いでもないがな。」
「………え……?」
にやりと笑ったザックレー総統が、ナイトを動かした。
「―――――あ……っ……?」
先ほどまでに順調に相手の駒をとっていた私のクイーンが、一切身動きが取れないよう、私自身の駒で行く手を阻まれるように囲い込まれていた。
全て最初からそうなるように、誘導されていた。
「――――――自分が最も信頼していた者が思い通りに動かなくなった時ほど――――――絶望するだろう?」
その少しの歪みを含んだ笑顔は、少し、ゾッとした。
「―――――………!」
次の数手で、あっけなく私は首をはねられた。
「――――いや、楽しかったよナナ。」
「――――もっと精進します。」
「いやいや、たまには私も勝ちたいからな。今は気分がいい。」
ザックレー総統は満足げな表情で立ち上がって伸びをした。
「たまには、と言うと……どなたかとよく対局されるのですか?」
「ああ、エルヴィンとね。………一度も勝てたことがない。可愛くないんだ、あいつは。」
「ふふっ。」
私が笑うと、ザックレー総統も少し微笑んだ。
その時、執務室の扉が外からノックされた。