第52章 盤上
「今は、私しかいない。言ってしまえ。」
「そ……れは………。」
言っていいはずがない。
私が下手な事を言えば、エルヴィン団長の首が飛ぶことだってありうる。
変な汗がじわりと背中に滲む。
「『散々命を犠牲にしておいて、この機に奪還を目指さないなど、彼らは無駄死にじゃないか。』――――そんなところか?」
ザックレー総統はふふ、と笑いながら、チラリと私の目を覗いた。
「!!」
「―――――君は医者だものな。命を救う者が、命をないがしろにされて憤るのはごく当たり前だ。なにも間違っていない。」
「―――――………。」
お見通しだった。この方もまた怖い。
―――――でも不思議と、この素直な気持ちを話しても大丈夫じゃないかと、そう思った。
私はごくん、と息を飲んで、素直な気持ちを吐露した。
「奪還作戦で亡くなった25万人の命に………、そして今回の調査で殉職した仲間の命に………報いるために、ウォール・マリアを……取り戻したかったのです………。」
「――――実にまっすぐで、良い志だ。」
「資金難なのは理解、しますが――――……今やれば、なにかが、変わるかもしれないのに――――……。」
「例えば王政が資金をかき集めたら、そのしわ寄せはどこに行く?」
「―――――……。」
「農耕地を大幅に奪われたこの状況でさらに軍資金にするための税金を巻き上げられる。食って行けない市民が何万人出るかな?」
「―――――……。」
「100%取り返せるならまだ良いが――――――、それで失敗したら?」
「………っ………。」
「この国は破綻だ。25万人どころじゃない人間が死ぬ。」