第52章 盤上
結局エルヴィン団長の想定通り、私たちの案が通るはずもなく会議は不毛に終了した。
エルヴィン団長が別の方に呼ばれて別室に移られ、私はしょんぼりと肩を落として窓から外を眺めていると、思いもよらない人物から声をかけられた。
「ナナ、だったかな?」
顔を上げるとそこには、ザックレー総統が先ほどよりは幾分やわらかな表情で私を見ている。
思わずビクッと姿勢を正して敬礼した。
「は、はいっ……!」
「――――君は最年少で医師の資格を取ったんだったな。」
「は、はい………。」
「チェスはできるか?」
「はい、嗜む……程度に。」
「一局手合わせ願いたい。」
「よ、喜んで……!」
まさか、ザックレー総統の執務室に迎え入れられてチェスをすることになるとは夢にも思わなかった。
チェスは、よくワーナーさんと遊んだ。
ワーナーさんはとても強くて、一度も勝てないままだった。そんな懐かしいことを少し思い返しながら、ザックレー総統に向き合って駒を動かす。
おかしい、順調に事が運び過ぎている。
手ごたえがない………意外にも、このまま行けば私でも勝てそうな状況だ。
次の一手を思案しながら、ザックレー総統は口を開いた。
「―――――何か、言いたかったんだろう?」
「…………!」