第52章 盤上
張り詰めた空気の中、会議は始まった。
エルヴィン団長がウォール・マリア内北部・東部・西部の調査報告を述べたあと、この機にウォール・マリアを塞ぐ作戦を実行することを提案したが、まるで取り合ってもらえる様子はなかった。
「―――――王政側はウォール・マリアの奪還を急務だと認識していない。それだけの大がかりな作戦への軍資金を今から確保することは、不可能だ。」
ザックレー総統が冷たく言い放った。
分かってはいたけれど――――――、私は拳を強く握りしめた。
「巨人の生息数は減少、奪還作戦の意味があったと王政には報告しておく。無駄な提案は不要だ。以上。」
「―――――っ!!」
その薄っぺらい報告のために、調査兵団の兵士が死んだのに――――――!!奪還作戦に本当の意味を持たせるために、動くべき時は今じゃないのか!!
思わずその場で怒りを露わに叫んでしまいそうになった。
私が物申そうとした雰囲気は即座に場の人たちに察知され、わずかに会議室の空気が揺らいだ。
「ナナ。」
しかし、私の叫びはエルヴィン団長の鋭い瞳に射られて制された。
「…………申し訳、ありません……。」
私の失態は、エルヴィン団長の失態になる。
その自覚をしていたつもりが、またカッとなって我を忘れるところだった。小さく謝罪の言葉を口にした。
「――――エルヴィン、何か意見でも?」
「いえ、失礼しました。」
「――――ならいい。」
鋭い眼光をこちらに向けた後、ザックレー総統はまた手元の資料へ目線を落とした。