第52章 盤上
以前から言われていた通り、夜会だけでなく今回から王都招集会議に私も同行することになった。
3兵団のトップのザックレー総統はもちろん、駐屯兵団の司令官や各師団長も集まる会議に、私なんかが同行して良いのだろうかとも思ったが、エルヴィン団長の面子のためにもビクビクするわけにはいかない。
王都の兵団本部。
エルヴィン団長の後ろについて、会議室へと向かう。
その時、黒髪にうっすらと髭を生やした、40歳前後の長身の男性がエルヴィン団長に話しかけた。
「――――よぉ、久しぶりだなエルヴィン。」
「あぁナイル。元気そうで何よりだ。」
「……なんだ、お前が副官を連れて来るなんて珍しいな。」
ナイルと呼ばれたその男性は私を一瞥した。
名前は知っている。憲兵団のナイル・ドーク師団長だ。
背筋を正して一礼する。
「ナナ、挨拶を。」
「はい。ナイル・ドーク師団長。お目にかかれて光栄です。調査兵団団長補佐兼医療班のナナ・オーウェンズと申します。」
「………オーウェンズ?あぁ、あの噂になった最年少医師の………なんでまた調査兵団なんかに……。」
「おいおいナイル、なんかとは失礼だな。」
エルヴィン団長がふっと笑う。
「ナナはそれだけ高い志を持っているということだ。」
「…………。」
ナイル師団長は私を観察するように鋭い目を向ける。ぐっとこらえて、目を逸らさずにそれに相対した。
「――――そんなに怖い顔で私の補佐官を威圧しないでくれ。」
エルヴィン団長は私の肩にそっと触れて、私を庇うようにナイル師団長に笑みを向けた。
ナイル師団長はエルヴィン団長のその仕草に片眉をぴく、と上げたかと思うと、何も言わずに背を向けて立ち去った。
「―――――やれやれ、すまないね。怖かったか?」
「いえ。………ナイル師団長と、気心が知れた中でいらっしゃるのですね。」
「あぁ、同期だからね。」
「そうなのですか。」
エルヴィン団長のことはまだ知らないことも多い。その過去を少し知れて、なんだかとても新鮮な気持ちだ。