第52章 盤上
「――――アーサー・ウィルソン宛の手紙をどこかで見た記憶があると思ったんだ。父が外の世界や王政の隠している秘密の事を研究する際に使っていた偽名だったのだろう。実家に戻って父の書斎を探してみたが―――――ほとんどの手紙や書類は処分されていて、それだけが残っていた。―――――想像だが、その贖罪の言葉を見る限り、私が父の秘密を外に漏らしてしまったことから―――――研究仲間だったワーナー氏とフリゲン氏に宛てて書いたのだろう。最期の最期に、死を悟って本名を書き記したものの………出せなかったのだろうね。」
ワーナーさんのその仕草や振る舞いから、どう見ても上流階級の出身だと感じていた私は、なぜ地下街にいるのか、と何の悪気もなく問うたことがあった。
その時、笑って『悪い事がバレてしまったから、逃げて来たんだ。』と言っていた。
それが、このエルヴィン団長のお父様が亡くなったことと関係しているのではないか。
ワーナーさんの意志を継いだ私とリヴァイさん、そしてお父様の意志を継いだエルヴィン団長。
これは、運命か因縁か。
この世界の真実を、私たちが解き明かすしかないんだと、体中の血液が沸くような興奮を覚えた。
「―――――こんなことが………。」
「―――――不確実なものを信じない私が、初めて“運命”というものを信じそうになったよ。」
エルヴィン団長がふふ、と小さく笑った。
「父が私の手助けを願ったワーナー氏は今はもういない。だがその意志を君に遺してくれた。―――――君は俺に、力を貸してくれるか?」
「―――――もちろんです。」
「ありがとう、ナナ。」