第52章 盤上
「次回の王都招集ではありのまま報告をしてくるよ。もちろん今の案も提案として持っていく。……が、上の反応はみんなの想像通りだろう。期待はしないでくれ。」
「………了解だ。」
「………ああ。」
「……………。」
幹部の皆さんが部屋を出て行かれ、私は資料の片づけを始める。分かってはいる、けれどもやりきれない。
「―――――どうした、ナナ。」
背中からかけられたエルヴィン団長の声に、振り向かないまま答える。
「………悔しいです。」
「―――――わかるよ。」
「奪還作戦で命を失った人達……そして今回の調査で殉職した兵士に報いるために………今やれば、人類にとって何かが変わるかもしれないのに……!!」
「…………。」
「そんなに、望みは薄いのですか。」
「―――――可能性はほぼ0だろうな。現在の兵団トップの……あぁ、夜会で会ったね。私もまだ掴みきれていないが、ザックレー総統は今知る限りでは王政の意向に忠実な人物だ。王政に不都合な作戦は採用されないだろう。」
「じゃあ調査なんて、なんの意味が―――――――!」
「王政の実行した奪還計画に意味があったと、証明するためだよ。――――ほら、巨人は減っていた。作戦に意味はあった、とね。」
エルヴィン団長は嘲笑した。
「今手を打たなければ、多くの命を失ったことが、無意味になるのに……っ……!」
「―――――そうだな。………だが、そんな茶番を鵜呑みにして真実を知ろうと、戦おうとしない民衆もまた愚かだと私は思う。」
「―――――………。」
「飼いならされるのは、実に楽だからね。」
――――――悔しい。
でも、これが現実だ。私だってそうじゃないか。
調査兵団に入る前に、日々の暮らしや王政に疑問を持ったことなどあったかと聞かれれば、なかった。
飼いならされることの屈辱も怖さも、感じさえしなければそこは案外生きやすいのかもしれない。