第52章 盤上
「そこは人海戦術に出るしかないよ。巨人のうろつく平野を突っ切って資材を運び、巨人と戦いながら補修作業をするよりは現実的じゃない?どのみち資金的にも人員的にも兵団を横断しての策になるだろうね。次の王都招集会議で今回の報告に合わせて、兵団を横断してのウォール・マリア補修作戦について案を上げてみる?エルヴィン。」
ハンジさんがエルヴィン団長に問うと、エルヴィン団長は顎に手を当てて思考した。
「――――上が了承するか?どうせ資金繰りの話をされるぞ。」
腕を組んだままミケさんが期待していない、とばかりにため息交じりに一言を零した。
「――――口減らしを成功させた豚共にとって、今すぐウォール・マリアを塞がなきゃいけねぇほど切羽詰まってねぇからな。」
「………なんなんだよ、私たちは一体何のために戦ってるんだ……。」
ハンジさんが怒りを露わにして、やるせなさを拳に込めてソファを打ち付けた。
「―――――やつらが切羽詰まるのは、どんな状況になった時だ?」
エルヴィン団長の目に策略家のそれが宿る。
「―――――そりゃあ、更にウォール・ローゼまで破られたら……さすがに………。」
ハンジさんの言葉に、エルヴィン団長は両手を合わせて組んで、口元を隠す。―――――でも私には分かる。
その手の下には――――――笑みが隠されている。
「―――――大きな仕事にはそれなりの準備期間が必要だ。」
「………それって………。」
ハンジさんがどこかエルヴィン団長に怯えたような表情を見せて、たじろいだ。
エルヴィン団長の底の見えなさは、時折恐怖を感じるほどだ。