第50章 悋気
「聞いて驚きました。モブリットさんは訓練兵を経ずに入団されたそうですね……!」
「そう、ウォール・マリア奪還作戦で一般市民から兵として出陣して、その後調査兵として戻って来てくれたの。」
「――――すごい、訓練期間なしであそこまで……。」
二ファが目を輝かす。
「――――ちょうど私の大切な子達が、訓練兵に今年なったんだけど―――――、やっぱりそんんなに厳しくて大変だった?」
「――――はい、教官はもう鬼のようで……。」
「鬼?!それは……よく頑張ったね……。」
二ファの言葉と、思い返した時のどんよりした表情から、エレンやミカサ、アルミンの事が少し心配になった。
「ナナさんも訓練兵を経てないんですか?」
「――――うん、私は医療班の設立と、団長・兵士長補佐の役割で入団をさせてもらったから。ここに来てから立体機動を習ったの。だから恥ずかしいけど、戦闘はできなくて。」
「えっ、立体機動上手なのに……!すごいです。」
「師匠が良いからかも。リンファに教えて貰ってるんだ。」
「リンファさんですか!確かにリンファさんの立体機動は無駄がなくて綺麗で、憧れます。あと―――――やはりリヴァイ兵士長の戦闘力は群を抜いてますよね。………到底目指すなんておこがましいけど………憧れます。あんな風に強く、なりたい。」
「―――――うん……。」
それからいくつか他愛もない話をした。
そうだ、つい私は考えることから逃げたい時に、全て自分で抱え込んでしまう癖があるけれど、こうやって頼ればいい。二ファと話ができて心も弾んだ上に、とても大切なことに気付かせてもらえた、のに。
心に薄暗い影が差すのはなぜだろう。