第50章 悋気
「―――――萎えた。」
ナナを解放する。
ナナは驚いた顔でゆっくりと上体を起こした。
「――――自分の意志もなく、自分の身も守れないような弱い女に興味はねぇ。行け。」
冷たく言い放つと、ナナはグッと泣き出すのを堪えるように身体を固くしてから目を逸らし、小さく返事をした。
「はい………。」
ナナが立ち上がろうとする時に僅かに見せた震えは、俺が怖いのか、俺から嫌われることが怖いのか。
冷めた紅茶を二つ残して、ナナは部屋を去った。
本当は欲望の赴くままに、死ぬほどキスして、壊れるほど抱いて、鎖で繋いで閉じ込めてしまいたい。でもそれはあいつの翼を折ることになる。
ふと、ワーナーからの手紙の内容を思い出す。
“エイルを守り、育て、導け。エイルは、お前の生きる意味・希望になる。最愛の存在になるだろう。”
簡単に言ってくれるが、じじぃ。
閉じ込めて自分のものに堕としこむ愛し方しか知らない俺にとって、守り育て、導くことと女として愛することを両立させることがどれほど困難か、てめぇにはわからねぇだろうよ。
死に際に重たすぎることをサラッと残していきやがって、文句の一つも言えやしねぇ。
―――――だがこれでいい。
あいつが悔いなく選べるように、必要なら時にはその手を離すことも、あいつを育てる俺の役目だと――――――
そう自分に言い聞かせた。