第50章 悋気
「―――――ちっ………。」
リヴァイさんの舌打ちに、ビクッと身体が震える。
恐る恐るリヴァイさんの眼を見ると、苛立ちと情欲を抑えずに発するその三白眼に背中が粟立った。
「――――お前は本当にとことん俺の努力を無下にするな?――――――俺から逃げる機会を、与えてやったのに。」
首を押さえつけられて床に力づくで伏せられ、リヴァイさんが私の上に跨る。
「――――――……ぁ、う……っ……!」
「――――――逃げねぇなら、滅茶苦茶に犯してやる。俺の言いなりになるしかないくらい――――――徹底的に。」
「………はっ、ぁ………。」
「お前が選ばないなら、俺が選ばせてやる。」
――――――――――――――――――――
ベッドでもなく、ソファですらない地べたに押し付けて、まるでこれから凌辱でもするかのように、初めてナナに向けて殺気を含めた欲情の色を放った。
だがナナは怯えもせず涙も流さず、ただその濃紺の瞳で俺を見上げる。
その目は、虚ろだ。
「………………。」
「―――――怖がれよ。」
「………怖く、ない………。」
その言葉にナナの首を掴んだ手に力を込める。
「本物の凌辱をされてぇのか?―――――ぶっ壊れるまで突っ込んで、ぐちゃぐちゃにして―――――俺の欲にまみれさせて、奥の奥まで汚してやる。」
「――――………いいよ。無理矢理選ばせて――――リヴァイさんを………。何も考えられないぐらい、私を埋め尽くして――――。」
ナナの言葉に俺のほうが気押される。
何を言ってるんだ、こいつは。
たかだかキスをしたくらいで、どこまで俺につけこませる気だ。真面目すぎるだろ。
―――――エルヴィンの人間を惹きつける強さは俺だって身に染みてわかっている。
そのあいつが本気なんだ、いつ攫われてもおかしくないとそれなりの覚悟だってしている。
それなのにこいつは、心がなびくことすら悪だと思っているのだろうか。大人になったと思っていても、やはり幼い。
狡く聡く変化していく自分をよほど汚いと思っているのか、まだ受け止めきれないでいるらしい。