第50章 悋気
「――――――キス、しました。」
された、とは言わない。
自分自身が幻滅するほどのズルい女には、なりたくない。
自分の中でのささやかな葛藤だった。
「―――――されたんだろう?」
「………私が、甘かったんです。」
リヴァイさんの腕に、わずかに力が籠る。
「―――――お前が求めたのか?」
「違います。でも――――――好意を寄せられていると知っていながら、あまりに無防備だったのだと……思います。隙だらけだと、言われました。」
「―――――ズルい女に、なれよ。」
「―――――え……。」
「馬鹿正直に話しやがって。嘘でもついて、ていよく俺を繋いどきゃいいものを。」
「―――――リヴァイさんに嘘は、つきたくない……つけない……。」
「―――――それは俺が嫉妬に狂うと怖いからか?」
「違う!」
それだけは否定したくて、リヴァイさんの方に向き直った。
「リヴァイさんが、私と向き合って尊重してくれているのがわかるから……っ………、私もズルいことはしたくない……。気持ちを、ちゃんと、話したくて………。」
「―――――俺じゃなく、あいつと生きるか?」
「―――――………。」
私は弱弱しく頭を横に振った。
「エルヴィン団長を知る度に、もっと知りたいと欲が出るんです……!きっと惹かれているんです、なのに――――――……リヴァイさんを、諦められない………、どうやったら、このまま愛され続けることができるかなんて、そんな……汚いことばっかり、考えてる………!」
「…………。」
「―――――エルヴィン団長をきっぱりと拒絶する気も、ないくせに……!」
「…………。」
リヴァイさんは黙って私を抱き締めた。
「リヴァイ、さんが……守ってくれていた――――――純真で無垢な私は、エイルは――――――……もういないのかもしれません………。」