第50章 悋気
「―――――なぁナナ、そういえば夜会は何事もなかったのか?」
エルヴィン団長が所用のために珍しく実家に戻ると言って兵舎を不在にしたある日、リヴァイさんに執務室に呼ばれた。
紅茶を淹れていると背中越しに、思ってもみなかった質問が飛んできた。
「――――え、あぁ………何事というか……まぁ、色々ありました……。」
「なんだよ色々って。」
「えっと………。」
私はバルコニーで殺気を纏った男に背後を取られたあの事を話した。
「―――――エルヴィン団長は、王政が飼っている暗殺部隊の1人じゃないかと仰っていて………身がすくみました………。」
「――――――………。」
「リヴァイさん……?」
「―――――いや、なんでもねぇ。」
何か少し嫌な事でも頭を過ったのか、リヴァイさんは苦い顔をした。その不安な顔を見ると抱き締めたくなる。
でも、それが憚られた。
後ろめたかったからだ。
「―――――他には何があった?」
リヴァイさんが後ろから私を抱き締めた。
なにかあると、きっと感づいている。
「…………。」
「―――――話したくないなら、いい。」
リヴァイさんはいつだって私のことを暴けるのに、それをやめた。しないと決めたのだろう。
愛し方を変えようとしてくれている。
私はそれにどこまでも甘えて――――――ずるずるとこの濁った気持ちでリヴァイさんと相対するのだろうか。
そんなことがあっていいのか。
フェアじゃないだろう。